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麻生りり子イリュージョン.jpg

「イリュージョン」シリーズより、作品「惑星と女」#1~#3 2023年作  木材・水彩・ライト・塩ビカプセル 能舞台にセットはほとんど無い。その代わり、能舞台では登場人物が発する言葉だけですべてを自在に創造できる。そこはイリュージョンの世界。「あそこに見えるは地球」といえば、我々はもう宇宙にいて地球を遠くに眺めている。見えないはずのものを見せる能舞台は、言うならば、観客の脳内でARを発動させているとも表現できる。背景のパネルには檜木材を用い、能の檜舞台を拡張する。そして、私は能面師として、その能の象徴たる能面を打っている。数百年の歴史を経てもはや何かの役を演じるためのただの木彫りの面ではなく、能の持つ概念を内包した存在と位置付け、「イリュージョン装置」と銘打って作品を制作する。

「惑星と女」#1 光る球体は地球を表す。能の物語では、よく月が出てくる。世阿弥は、山々の風景と共に月を描き出すことで、はるか遠くを見やるような「遠見(えんけん)」という効果を生み出した。 この世阿弥が生み出した遠見という手法を用い、「あそこに見えるは地球」と月の代わりに地球を提示することで、月から地球をはるか遠くに見ているという状況を生み出す。

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「惑星と女」#2 右手に月、左手に地球。お月見とお地球見を同時にする。さすれば、宇宙空間はさらに広がりを見せる。

「惑星と女」#3 いくつもの惑星が明滅する。宇宙は拡張し続ける。   こちらの能面は「老女小町(ろうじょこまち)」。世界三大美女の一人、小野小町の晩年の姿だ。こけた頬に落ち窪んだ眼窩。聡明で美しかった頃の面影をどこかに見出すことはできるだろうか。どんなことでも可能にしてしまうイリュージョンだが、広大な宇宙空間にあっても、すべては諸行無常なのである。

シリーズ『対象物』  ​ 能面の前に対象物を置く。ただそれだけのことで能面が俄かに対象物を見つめ、何かを感じたり、考えているかのように見えてくる。人間は能面の表情に何かしらのストーリーを見出し、己と関連付け、イメージを想起する。この時、能面は己の内面を外在化させる鏡となる。 しかし、それは錯覚に過ぎない。実際には能面はただの木彫りの面に過ぎず、置かれた、あるいは置かれなかった対象物に何ら意味は無い。にもかかわらず、人の脳は能面の表情や対象物にストーリーを見る。あるいは、見ようとする。対象物を置くことで能面が己の内面を投影させ心という幻影を作り出す装置となっている。

#1「Nohmen」

​能面がある。

#2「Something round」

​能面の前に、対象物を置く。

​この時、対象物はできる限り具体性を排除するため、クリアな球体とする。

#3「Nothing」

​能面の前には、何もない。

#4「A glass of water」

グラスに半分、水が入っている。

#5「The other side」

透明な枠を挟んで能面と相対する。

タイトル:『ベクトル』

2022年作

木材・水性顔料・映像

使用能面:「逆髪」・「逆髪(古面風)」・「老女小町」

【映像共同制作】

東京国際工科専門職大学情報工学科(監修:鈴木雅実教授 制作実行:栁谷諒太)

万物は変化し続ける。 このエントロピーの増大の法則に抵抗し不変を手に入れようと、人類はテクノロジーを進化させてきた。 エントロピーの増大の法則は日本の「諸行無常」を彷彿とさせるが、諸行無常はエントロピーの増大を受け入れ、さらに、そこに哀愁を感じながらも慈しむ精神性がある。このようなエントロピーの増大という自然法則の先にある諸行無常を内包するのが能面である。 中央に配置された若い女の能面から出る3つの矢印は、時間経過のベクトル、すなわちエントロピーの増大を表す。矢印の先の能面は、時間経過による生物としての老化、物質としての劣化、テクノロジーの進化を表す。 テクノロジーの進化によりイメージとしての能面を構築し保存することは、あたかも不変を手に入れることができたかのように錯覚させる。しかし、能面は諸行無常を内包する存在であるため、不変を得ることはその精神性を再現しえず、能面としての本質が失われる。つまり、いかなるテクノロジーを用いても再現しえないということこそ、諸行無常であり、エントロピーの増大なのだ。 いずれにせよ、人類が滅亡し、テクノロジーが消失してしまえば、イメージの能面も存在しえなくなる。すべては、エントロピーの増大の法則の中の刹那の出来事に過ぎない。

シリーズ『タイムカプセル』

脚本家でもある作者が創作面に短いストーリーと台詞を付加した作品。「地球滅亡」という結末を封じ込めたタイムカプセル。創作面として「Avatar of Blue earth」「Princess Kaguya」「Amabie」を制作し、SF的ストーリーと組み合わせ、日本の伝統文化である能面のアップデートを試みた作品

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(プロローグ)

我々人類は、今これらのタイムカプセルと遭遇した。

しかし、今はまだ開けるべき時ではなかったのかもしれない。

その中に入っていたのは、地球滅亡のトリガー。

開けてしまったタイムカプセルを慌てて閉じ、この先の時空へと放出する。

こうして地球最後の瞬間が来るのを少しばかり先送りにする。

またいつの時にか、どこかで誰かが開けてしまうかもしれないその日まで。

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#1『AMABIE』 2020年、コロナ禍においてや災厄除けのご利益があるとされ話題となった『妖怪アマビエ』を能面に落とし込んだ作品。 菱形の目、とがった口、耳の位置にあるヒレが特徴。 厄除けの意味があるラピスラズリを上瞼と下瞼の菱形の頂点となる位置に埋め込み特徴的な目を表現。 能面では金色の眼はこの世のものではない超自然的な存在を表し、妖怪であるアマビエの目にも金色の彩色を施した。

■short story of 『Amabie』 海から回収したカプセルを開け、皆、息を吞んだ。 魚を思わせる青い肌、金色の眼、ヒレのような尖った耳、突き出た唇。 「これ、アマビエじゃない?」と、誰かが言った。 アマビエは、我々にメッセージを伝えた。 ——The end of the world is coming. Make a lot of my clones all overe the earth. 地球滅亡を回避するため全世界が力を合わせてアマビエのクローンを大量生産し、もはやその数は人類を上回り、地球はアマビエに埋め尽くされた。 ——Thanks, earthian!                      (END)

兵庫県立大学の田中キャサリン准教授のアマビエについての研究論文に協力。

http://aflls.ucdc.ro/doc/FLLS_Anale_1_2022.pdf

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■妖怪アマビエとは 江戸時代の瓦版に描かれ、災厄を予知したと言われる海に棲む妖怪アマビエ。 瓦版によると、災厄に見舞われる時、アマビエは、自分の写しを世に広めよ、と言ったという。 *(右図)『肥後国海中の怪(アマビエの図)』(京都大学附属図書館所蔵) Photograph courtesy of the Main Library, Kyoto University - Amabie

#2『Princess Kaguya』

■『竹取物語』のかぐや姫とは 『竹取物語』は、平安時代に書かれた現存する日本最古の古典文学であり、日本最古のSF小説とも言われており、その主人公が「かぐや姫」である。かぐや姫は求婚者達に無理難題を言い、彼らはことごとく失敗する。そして、本当は月の人であるかぐや姫は、月へと帰っていく。 ​

■創作面『Princess Kaguya』 月が満ち欠けによってその表情を変えるのは、能面の表情変化に似ている。それは光の当たり具合でこちらにはそう見えているだけで、月も能面も本質は何ら変わっていないのだ。そんなところから発想を得た。 並みいる求婚者たちになびかず、そっぽを向いているかぐや姫になぞらえて、この面はどこから見ても目が合わないようにした。儚げで憂鬱そうな表情を見せる。 月の人、すなわち宇宙人ということで、近未来的なメイクを施した。

■short story of 『Princess Kaguya』 彼女は今、月へと帰る。丸いタイムカプセルに乗って。 彼女は月から地球へ来た宇宙人なのだという。 彼女は並みいる求婚者達にはそっぽを向いて目を合わせようとしなかったが、 彼女はあいかわらずそっぽを向いたまま、こう言った。 ——I won’t be back to the earth.    I can’t be back, even if I want. 月へと向かうタイムカプセルの中からも、彼女はあいかわらずそっぽを向いて、決して見ようとはしなかった。青く美しい地球最期の瞬間を。 (END)

#3『Avatar of Blue earth』

 

■地球と人類の誕生

地球が誕生したのは46億年前、人類の誕生は700万年前だと言われている。

■創作面『Avatar of Blue earth』 地球そのものを擬人化した存在として創作した面。 大地、大気、水、マグマをイメージした化粧彩色。 地球上で人類が何をしようと、どうなろうと、ただただ全てを見通すような真っすぐに見つめているイメージで制作。

#3『Avatar of Blue earth』

 

■地球と人類の誕生

地球が誕生したのは46億年前、人類の誕生は700万年前だと言われている。

■創作面『Avatar of Blue earth』 地球そのものを擬人化した存在として創作した面。 大地、大気、水、マグマをイメージした化粧彩色。 地球上で人類が何をしようと、どうなろうと、ただただ全てを見通すような真っすぐに見つめているイメージで制作。

■short story of 『Avatar of Blue earth』 彼女は何も言わなかった。 彼女というものがいつから存在しているのかは、彼女自身にもわからなかったが、とにかくずっと何も言わず、地球の表面で起こる出来事をただじっと見つめている。 彼女の表面で、人類が何をしても、怒りもせず、憐れみもせず、救いもせず、嘲笑うこともしなかった。 ただただ見ていた、熱くもなく、冷たくもない視線で。 彼女は地球そのものであるのだが、なぜか地球の表面で起こっていることを、少し離れたところから見渡すかのようにすべてを見ていた。 彼女は自分が丸い透明な球体の中にいることに、ふと気がついた。 彼女はこれまで何も言わなかった。 長い長い間、何も。 彼女はつぶやく、恐らく最初で最後になる言葉。 ——It is time to say goodbye to myself. (END)

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